シャチは「海の王者」と呼ばれるほど食物連鎖の頂点に位置する生き物です。
ホオジロザメでさえも補食対象となるため、「シャチは怖い生き物だ」と恐怖を訴える声も少なくありません。
また、シャチは人間を襲う、食べるとの噂もあり、実際にシャチが人を死なせてしまった事件も起きているためご紹介していきます。
シャチを怖いと感じる【理由】
シャチは水族館でも大人気の生き物です。
しかし、過去には様々な状況においてシャチに対し恐怖心を感じた方は少なくありません。
いくつか事例をご紹介していきます。
船を至近距離で追いかける
日本では、例えば釣り船に乗っていてイルカの群れに遭遇することはあってもシャチに遭遇することは滅多にありません。
しかし、海外ではシャチが追いかけてくるケースも報告されています。
もし後ろからイルカの群れが追いかけてきた場合は「可愛い」「ラッキー」と感じますが、それが巨大なシャチであれば「転覆させられたらどうしよう」「その後食べられない保証もない」と恐怖を感じると思います。
知能が高すぎる
シャチは知能が高い生き物として知られています。
とくに狩りのチームプレーや能力は人間にも劣らないレベルだと言われるほどです。
こちらの動画のように、シャチも餌で獲物をおびき寄せて捕獲します。
有名な狩りの例として、氷上にいるアザラシを捕らえる際に、シャチの群れが波をたててアザラシを海に落とすチームプレーもあります。
しかし、怖いのは「補食のターゲットを人間と認知した時」です。
シャチは子供に狩りの方法を指導するため、もし人間を食べる機会があった親のシャチが「人間も餌として食べられる」と教え、さらに群れ全体に伝われば、シャチにとって人間を食べる習慣になるのではと考えています。
※可能性は低いですが、あくまでも最悪のケースとして
不慮の事故が起きる可能性
水族館では、シャチのショーを気軽に楽しむことができます。
飼育員さんの指示に対し、完璧なパフォーマンスを演出している姿を見ると、やはり知能の高さはかなりのものだと感じますよね。
しかし、シャチの体長と体重は、人間と比較をしても2、3倍では済みません。
【オス】
体長:約5.8~6.7m、
体重:約3,600~5,500kg
【メス】
体長:約4.8~6m、
体重:約3,000~4,000kg
最大レベルのオスでは約10m、10トンにも達すると言われています。
これほどの体格差があれば、例えばこちらの動画のようにシャチの尻尾が軽く触れるだけで人間は吹き飛びます。
シャチよりも大型であるクジラの尾びれが危険と言われる理由にも納得できますよね。
シャチが人間を襲うことはない?
シャチは基本的に人間を襲う生き物ではないと認識されています。
その主な理由として、
ポイント
①親から狩りの仕方を学ぶ際に人間を餌だと教わっていないこと
②普段補食するアザラシなどの餌と形等も似ていないこと
このあたりが関係していると言われています。
しかし、これはあくまでもシャチが人間を襲った前例が少ないこと。
シャチは学習能力が高いことから、今後何か事件が起きれば状況が変わる可能性はあると予想できます。
実は、1973年のアメリカ海軍の潜水マニュアルでは、「シャチは隙あらば人間を襲う」と警告されています。
⇒シャチの天敵【一覧】人間が絶滅させる?マッコウクジラやサメとの生存争い
では、実際にシャチが人を襲った事件をご紹介していきます。
【実話】シャチが人を死なせてしまった事件
シャチが実際に人を襲って死なせてしまった事件は既に起きています。
水族館で起きた3名の死亡事故に関与したシャチのティリクムの話は、世界的にも有名です。
経緯を話していきます。
ちなみに、ティリクムは体長6.9m、体重も5400kg以上と飼育されているシャチの中では最大級でした。
①1人目の事件
1991年、カナダの太平洋シーランドにて海洋生物学を専攻していた21歳の学生がプールに落ちました。
※調教師アルバイトとして働いていた
競泳の選手でもあったことから泳ぎは得意としていましたが、ティリクムやハイダ2号とヌートカ4号は彼女の回りをグルグルと泳ぎ、彼女を引っ張って沈めたりしました。
彼女はなんとか岸までたどり着きましたが、観客の目の前で再び3頭のシャチにより水中に引きずり込まれ、3回浮上したものの溺死してしまいました。
その後、ティリクムはフロリダ州オーランドのシーワールドへ移送され、太平洋シーランドは既に閉鎖されています。
②2人目の事件
2人目の事件は、1999年に27歳の男性がティリクムの背中で死亡した状態で発見されました。
この男性はシーワールドへ訪れ、閉館後にシャチの水槽に侵入しました。
この後に何が起きたのかは明らかになっていませんが、検視の結果、
注意
・挫傷
・打撲傷
・擦過傷
などが全身に及んでいたことが判明しています。
あくまでも推測として、ティリクムが溺死させたり、男性で遊んだのではないかと予想されています。
なぜこの男性がティリクムの水槽に入ったのかは不明ですが、とくにアルコールや薬物も体内から抽出されていません。
③3人目の事件
2010年に起きた事件は最悪な出来事でした。
当時40歳のドーン・ブランショさんは、シャチの調教師としてもベテランでした。
シーワールドにてシャチのショーを終え、ティリクムを撫でたところ、ティリクムは彼女を水中に引きずり込みました。
もちろんショーの直後なため、十数人の観客が見ている最中です。
他の職員は餌や網で気をそらそうとしましたが、彼女は死亡してしまいました。
死因は溺死や外傷ですが、
注意
・顎、肋骨、脛椎の骨折
・脊髄が切断
・頭皮が頭から剥がされる
・左腕は肩から切断
このように悲惨な状態でした。
この日のティリクムは朝から機嫌も悪く、命令にもなかなか従わなかったそうです。
なぜティリクムは人を襲ったのか?
3つの死亡事故を起こしたティリクムは、初め太平洋シーランドにて歳上の雄シャチ2頭と暮らしていました。
しかし、この2頭の雄のシャチ(ハイダ2号とヌートカ4号)はティリクムに対し攻撃的に接したため、ティリクムは小さな治療用のプールに移動させられました。
※格下の扱いをされていた
シャチは知能が極めて高いことや社会的な生活も好みます。
しかし、ティリクムはいじめに遭い、家族からも引き離され、自由に泳ぐこともできずストレスは頂点に達していたのかもしれません。
専門家の見解では、野生のシャチが人を殺した前例はないことから、ティリクムは3人を殺そうとした訳ではなく、遊ぼうとしたが手荒く扱ってしまったのではと考えています。
3つの事件の後もティリクムはショーに復帰しましたが、2017年1月6日に細菌感染により死亡しています。
鴨川シーワールドの事件についても気になる声が多いため、こちらの記事をご覧ください。
⇒鴨川シーワールド
シャチが人を襲撃した事件【理由は別にある】
近年、シャチが人を襲う事件が増加しています。
ただ、これは人を狙って襲っているのではなく、別の理由が関係しているとの声も少なくありません。
2023年5月4日、船長のヴェルナーさんは、スペイン沖合いのジブラルタル海峡を友人と共に航行していました。
その途中、3頭のシャチが船の後ろをついてきて「珍しい」とはしゃいでいたところ、その中で巨大な個体が船に向かって体当たりしてきました。
この1頭に意識をとられていたため、他の2頭がいないことに気がつかず、急いで船を出そうとしたところ、船底からバキバキ(ラダーを攻撃)と音が鳴り始めたとのことです。
波状攻撃を受けていると判断し、救難要請を出しましたが、3頭からの体当たりはおさまらず、襲撃から1時間が経過し沈没する寸前のところで警備隊のヘリが到着しました。
今回は無事に生還することができましたが、実はジブラルタル海峡周辺のヨットや船などに対するシャチによる襲撃事件は、2020年から始まり2年間で239件の襲撃報告がされています。
そのうち48件は重大事件としてヨットや船が沈没する状況にまで至っています。
主な原因として、シャチのポット(群れ)が学習したことで習慣になったのではないかと予想できます。
引き金となったのは「(WHITE GLADIS(純白の剣士)」とあだ名のつく推定12歳のメス(ポットで最長齢)だと言われています。
前例がないためハッキリとした原因は分かっていませんが、ヨットや船に対し
注意
・衝突により怪我を負った
・漁業の関係により仲間が怪我を負った、ストレスを感じた
このような出来事からヨットや船を排除すべきものだと判断している可能性が考えられます。
※被害者が小型ボートに避難した際、ターゲットをヨットから変えなかった事例も報告されているため
ただ、中にはシャチは好奇心旺盛な性格であるため、遊びの一貫だと言う専門家もいますが、ここまで事件が増加した前例がなく、沈没するレベルにまで襲撃していることから別の理由だと予想できます。
しかし、シャチの中で流行が発生することもあり、今回ラダーを壊すことでヨットが止まることについて仲間の中で流行した可能性もあると言われています。
とはいえ、これだけ事件が報告されている中でシャチが人を食べた、死なせた事例はないことから、人を餌として認識する可能性は低いと考えられます。
ただ、遊び道具として認識された場合は水中に引き込まれたり、尻尾で空中に飛ばされたりする可能性はあるので怖いですよね。
シャチは人に優しい生き物ではある
シャチによる事件はいろいろと発生しています。
今後も不慮の事故や襲撃事件により死者が出る可能性はあると予想できます。
しかし、シャチは教育の関係もあり、人を襲うことは基本的になく、前例もほとんどありません。
このように水族館でも癒される光景が見られます。
私もシャチは見た目や性格が大好きで、シャチが見たい理由だけで名古屋港水族館に通っていました。
シャチが人を死なせてしまった悲しい事件も実際に起きてはいますが、シャチは飼育員さんなど人を信じ、私達を楽しませてくれる愛嬌たっぷりの生き物です。
これからもシャチが幸せに暮らせるよう、私達にできることを協力していきたいですね!
⇒【シャチの平均寿命】子供の死亡率が43%?野生下と水族館での違いなど