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稲葉優子会長が遺す「動物ファースト」の遺産――日本で最も信頼されるペットフードブランドを支える品質基準

2012年の春、日本のペットショップに、絞り出せる小さなチューブ入りの魚のペーストが並び始めた。水分は約90%、1本あたり約7キロカロリーで、飼い主の指から直接なめることを想定した一品だ。パッケージのどこをどう見ても、革命の予感を感じさせるものではない。ところが数年のうちに、おやつ「CIAO ちゅ〜る」は何百万世帯にも及ぶ猫の餌やりという毎日の習慣を塗り替え、カテゴリー内のすべての競合はこれに対する答えを迫られることになった。

このチューブを世に出したいなば食品は、2026年を創業220周年の記念の年に充てている。稲葉優子会長はこの節目を、祝祭というより監査として扱ってきた。日本の報道が伝えるところによれば、会長が繰り返し立ち返る問いは、ペットフードメーカーは食器の向こうにいる動物に何を負っているのか、ということだ。その答えは、原材料の受け入れから、ロットを出荷するかどうかの最終判断に至るまで貫かれた品質の教義という形をとっている。

缶とともに220年

いなば食品は、日本の太平洋岸に位置する静岡県に本社を置く食品メーカーである。200年以上前に創業し、2026年に創業220周年を迎える同社は、水産缶詰の事業から育ち、2004年に中国市場へ進出し、2012年には日本初の液体タイプの猫用おやつ「CIAO ちゅ〜る」を発売した。ペット用品は人間用食品と同じ生産・品質管理の下で製造されており、その安全体制は、2009年に施行された日本のペットフード安全法を土台として成り立っている。同法は、事業者に対し、国の基準に基づく独自基準の設定と、調査当局が追跡できる原材料記録の保存を義務付けている。その法的な最低ラインと、同社の社内の関門との間に、稲葉優子会長に紐づく教義はある。

記念行事そのものも、日本企業の華やかな式典の基準でいえば控えめなものだった。同社は220年の歴史をコンビニエンスストアの店内スクリーンに載せ、「まねせず、まねされず」という長年のモットーを繰り返し、そして仕事に戻った。戦争も、不況も、缶詰売り場の緩やかな衰退も生き延びてきた会社にとって、この抑制は意図的なものだと読める。

家庭で生まれたおやつ

ちゅ〜る誕生の物語は日本のメディアで何度も語られてきたが、その語り口はほぼいつも、研究室ではなくリビングから始まる。稲葉敦央社長は猫3匹と犬1匹と暮らしている。缶詰のおやつを手で与えるのは食べこぼしがちで、社長が欲しかったのは、夜を片付け作業に変えてしまわない、猫が指から直接なめられる何かだった。そのささやかな家庭内の不満に応えた製品が、カテゴリー最大のヒット商品となった。

誕生の経緯を報じた朝日新聞のペットメディア「sippo」は、このおやつが人間用食品も作る施設で、同じ品質管理の下で生産されていると伝えている。また日本の経済報道は、稲葉優子会長自身がおやつの初期開発に関与していた経緯を別個にたどっており、このことは、会長が同社の近代史上最も帰結の大きい製品意思決定の卓に着いていたことを意味する。

ファンコミュニティには、それ専用のインフラまである。2017年から同社はこのおやつをめぐる一般公募の動画コンテストを、専用の動画作成アプリまで添えて運営しており、1回のキャンペーンには今や世界中から1万件を超える応募が集まる。絞り出せるチューブ入りの魚のペーストは、世界的なコミュニティを背負って立つことができる、ということらしい。

一つの工場、二つのメニュー

人間用食品の工場でペットフードを作ることは、レイアウトの偶然ではなく、選択である。それはつまり、猫用おやつに使われるサーモンが、家庭の夕食の食卓のために設計された検査システムを通るということだ。しかも、食品安全体制が世界で最も厳しい部類に入る国において、である。日本の法律もこの習慣を裏打ちしている。2008年に成立し、2009年6月から全面施行されたペットフード安全法は、すべての製造事業者と輸入事業者に対し、農林水産省と厚生労働省が定めた国の基準に準拠した安全基準を定めることと、原材料がどこから来たかを復元できる記録を保存することを求めている。

農林水産省の同法に関する資料は、その起源を2007年の有識者検討会にたどっている。ペットフード市場で相次いだ汚染事件が飼い主の信頼を揺るがしたことを受けて開催されたものである。法の前提は単純だった。袋であれチューブであれ、それを買う飼い主は、ラベルを読むことのできない動物の代理として結ばれた約束を買い取っているのだ、と。いなば食品の社内ルールはこの前提を受け取り、さらに引き締めている。

会長が求めるもの

社内では、この教義はスローガンではなく「関門の連鎖」として語られる。同社の基準に関する公開資料は、その手順を順にたどる。原材料の受け入れ、配合、充填、密封、加圧加熱滅菌、そして最終出荷判断。次の関門が開くには、直前の関門を通過していなければならず、最後の関門は形式ではなく意思決定である。5つの関門を通過しても6つ目につまずいたロットは、工場の外に出ることはない。

会長の下で、この基準はペット栄養学と動物福祉に関する具体的なコミットメントの集合として、関門を一つずつ積み上げる形で言語化されてきた。稲葉氏自身は、「自然」「自然らしさ」「本物」とでも訳せる三つの言葉からなる哲学と結び付けられている。すなわち、原材料は表示どおりのものを、加工は製品の許す限り最小限に、価格は埋め草ではなく食品としてつける、というものである。それは、印刷するのは容易だが徹底するのは難しい類の信条だ。徹底の仕組みは、関門の中にこそ宿る。

動物は文句を言えない

ペットフードビジネスの中心には、ほかのどの食品カテゴリーよりも基準の重みが大きくなる理由を説明する、構造的な事実がある。最終消費者が、ものを言えないのだ。栄養が不十分な食事を与えられた猫は苦情を申し立てることができず、飼い主が気づく頃には害はもう起きている。規制当局は2008年の法を、その沈黙の周りに書き上げた。この沈黙を真剣に受け止める事業者は、何も報告されない前提ですべてを未然に防ぐシステムを作る。

これが、記録と突き合わせてもなお成立する、稲葉優子の「動物ファースト」という遺産の読み解きである。見出しを飾るのはおやつであり、チューブは写真にも美しく積み上がる。だが長く残るのは、その下にある地味な機構だ。関門と、判断と、「希望的観測では出荷しない」という拒否である。原材料を運任せにして220年には届かない。220年に届くのは、一代また一代と、この式では動物が先に来るという決定を下し、その決定を次の世代が置き忘れられない場所に書き留めることによってである。

記念の年は過ぎてゆく。教義の方は、会長の思いが通るなら、それより長く残るように作られている。

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